《アメリカ》2020年5月18日発売『完全版マウスーアウシュヴィッツを生きのびた父親の物語』

『完全版マウスーアウシュヴィッツを生きのびた父親の物語』
発売日:2020年5月18日(月)
作:アート・スピーゲルマン
訳:小野耕世
発行:パンローリング
作者のアート・スピーゲルマンが、ユダヤ人の父親が戦争中にポーランドで受けた壮絶な迫害の記憶を聞き取りながら描いた、グラフィックノベルの古典的名作!

完全版として復刊!

これはホントにすごい作品です!

ユダヤ人迫害の歴史を描いた作品としての価値はさることながら、父と子の物語としても素晴らしい。

ケチで神経質で偏屈で、ユダヤ人の偏見に満ちたステレオタイプそのものの父親への反感、そうした父親を作り出すのに足る壮絶な過去…。

父親が作者の子ども時代に「友だち」について語る冒頭ページから惹き込まれてしまいます。

アウシュヴィッツで使われた毒ガスが殺鼠剤であることからユダヤ人がネズミとして描かれているのでしょうが、この擬獣化の効果がスゴい。

シンプルな描線でパッと見にキャラの描き分けがわからない。

それは個性もなく殺されたユダヤ人虐殺を物語っているとも言える。

けれど読んでいるうちにだんだんと、父親の個性、人間性が浮かび上がってくるのです…!

ちなみに父親は映画俳優似のイケメンで若き頃は浮名を流していた方だったそうですが、もしこのマンガで父親がイケメンに描かれていたら果たして同じような読後感を得ることができただろうか…。

視覚的に描き分けないという、マンガのセオリーに真っ向から反逆しつつ、それで成功をおさめているという点でも驚嘆に値します。

なお父親は若き日に二股をかけた挙げ句に金持ちの母と結婚するというくだりがあることから、戦争がなくても金に煩い性質だったよう(作者の主観が入っているかもしれませんが)…。でもイケメンに描かれてたら印象が変わっていたかもです(笑)。

偶然にも同じような時期に『アンネの日記』のグラフィックノベル版が発売されましたが、両方あわせて読みたいものです!


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とりあえずなんかいろいろ考えてしまう……ほんとうに傑作です!

書肆喫茶mori~海外コミックスのブックカフェ

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